キスから始まる方程式
◇天の川に願いを
「うっわー! キレイな天の川ーっ!!」
見上げた漆黒の夜空に燦々と輝く数多の星々。
吸い込まれそうなあまりのその美しさに、私はおもわず感嘆の息を漏らした。
今日は7月7日、七夕の日。
本来ならば今頃、私のお気に入りの場所であるこの管理棟校舎の立ち入り禁止階段で、桐生君と七夕祭の夜を過ごすはずだったのだが……。
妙に寒々とした誰もいない隣の空間に目を移し、おもわず溜め息を漏らす。
しかし桐生君と別れてしまった今となっては、二人で交わした約束など当然果たされるはずもなく、私はひとり、階段の踊り場の窓から夜空を眺めていた。
「今頃桐生君は、工藤さんとこの星空を眺めてるのかなぁ……」
幸せそうに肩を寄せ合いながら、夜空を見つめる桐生君と工藤さん。
実際に見たわけでもないのにそんな二人の姿が脳裏に浮かび、私の胸がチリッと疼いた。
「……って、何今更当たり前のこと考えてんだろ」
「ホント、私ってばバッカみたい」と消え入りそうな声でぼやきながら、膝を抱えて座り顔を埋める。
もともと七夕祭は全員参加行事ではあるものの、特に場所が指定されているわけでもなければ出席をとるわけでもない。
午後9時になれば、行事の終わりを告げる校内放送と共にその場で自由解散となる。
要するに、参加していようがいまいが、結局のところどちらでもなんら問題ないのだ。
「もう……帰ろっかな……」
なんだか急激に虚しさに襲われ、そんな言葉が口からこぼれ落ちる。
「ひとりで夜空見たって、やっぱり全然楽しくないや……」
これ以上ここにいても余計卑屈になるだけだと悟った私は、勢いよく立ち上がり、階段を駆け下りようとした。……のだが……
「あ……」
眼下に映った思いがけない人物の姿に、出しかけた私の足が瞬時に凍りついた。