キスから始まる方程式
ガシッ
「っ!?」
その刹那、私の右腕に突如として走った鈍い痛み。
えっ!? な、なに……っ?
桐生君と目を合わせないよう俯きながら階段をおりていたため、己の身に何が起こったのか理解できない。
焦りながら慌てて右腕に目をやると、桐生君の骨ばった手が私の腕をしっかりと掴んでいたのだった。
「……桐生……君?」
「あ……」
全く予期していなかった桐生君の行動に、再び心臓がざわめき出す。
「あ、あの……っ、どうしたの?」
「……っ、あ…… いや…… これは……」
私の動揺ぶりも相当なものだが、目の前の桐生君はなぜだかそれ以上に狼狽えている。
切れ長の瞳をしきりに瞬かせて言葉をつまらせる様は、動揺というよりもむしろ、切羽詰まっているようにさえ見えた。
桐生君……なんで私のこと引きとめたの?
私になにか言いたいことでもあるのかな……?
「あの……桐生君?」
腕を掴まれ桐生君を見上げたたまま、途方に暮れる私。
彼の意図もこの状況も、とにかくわけがわからない。
そんな私を見てようやく我に返ったのか、桐生君がしまったというように顔を歪め、慌てて掴んでいた腕を離した。