キスから始まる方程式


ガシッ



「っ!?」



その刹那、私の右腕に突如として走った鈍い痛み。



えっ!? な、なに……っ?



桐生君と目を合わせないよう俯きながら階段をおりていたため、己の身に何が起こったのか理解できない。


焦りながら慌てて右腕に目をやると、桐生君の骨ばった手が私の腕をしっかりと掴んでいたのだった。



「……桐生……君?」

「あ……」



全く予期していなかった桐生君の行動に、再び心臓がざわめき出す。



「あ、あの……っ、どうしたの?」

「……っ、あ…… いや…… これは……」



私の動揺ぶりも相当なものだが、目の前の桐生君はなぜだかそれ以上に狼狽えている。


切れ長の瞳をしきりに瞬かせて言葉をつまらせる様は、動揺というよりもむしろ、切羽詰まっているようにさえ見えた。



桐生君……なんで私のこと引きとめたの?


私になにか言いたいことでもあるのかな……?



「あの……桐生君?」



腕を掴まれ桐生君を見上げたたまま、途方に暮れる私。


彼の意図もこの状況も、とにかくわけがわからない。


そんな私を見てようやく我に返ったのか、桐生君がしまったというように顔を歪め、慌てて掴んでいた腕を離した。

< 469 / 535 >

この作品をシェア

pagetop