キスから始まる方程式
きっとこんなふうに桐生君と向き合って話すのは、今度こそこれで最後になるだろう。
肩から伝わってくる桐生君の指先の熱を感じるのも、恐らく二度とないかもしれない。
それでも…… それでも私は……。
―― 自分から前に進まなくちゃいけないんだ。
ようやくのことでそう思い至った私は、桐生君への想いを断ち切るべく、ゆっくりと腰を上げた。
しかし……
まさにそれと時を同じくして、桐生君が突如力なく俯いてしまった。
え……?
桐生君の意外な行動に、やっとのことで浮きかけた腰が再び階段へと据えられる。
桐生君、どうしちゃったんだろう?
突然のことに驚き首を斜めに傾け彼の顔を覗き込もうとするけれど、しかしその表情までは窺い知ることができない。
もしかしたら、私の顔を見たくないほど怒ってるのかな。
それにしては私の肩から手を外さないあたり、それともまた違うような気がする。
呆れるにしても、やはり前述と同じ理由でいささか的外れな気がするのだが。
ああでもないこうでもないと、思案すること数十秒。
やはり桐生君は同じ体勢で俯いたまま一向に顔を上げようとしない。
俯いてからずいぶん時間たつけど……大丈夫なのかな……。
桐生君の反応がないまま、時が経つにつれさすがの私も少々心配になり、勇気を振り絞って恐る恐る声を掛けてみた。