キスから始まる方程式
「あ……の……、桐生……君?」
ドクドクと、うるさいくらいに胸の鼓動が音をたてる。
……っと、待てよ? もしかしたら突然気分が悪くなって、それで寄り掛かってきただけとか……?
勝手に自分本位に期待して勘違いした挙句、再び傷付くのはもう嫌だ。
そんな思いから自己防衛本能が自然に発動し、知らぬ間に傷が浅くすむように自分の中で理由付けを重ねて行く。
どうしよう。やっぱり怖い……。怖いけど……でも……っ。
恐る恐る反応を確かめるようにして、それでも懸命に言葉を絞り出す。
「あのね、その……大丈……夫……っ!?」
けれどようやく発した私の言葉は、またしても桐生君の厚い胸に吸い込まれた。
「バカやろうっ」
先程よりも更に力強く、桐生君の腕がギュッと私を包み込む。
「俺が……っ、俺がどんな思いであの時身を引いたと思ってんだよ……っ」
「え……?」
なんともいえない切なさと苦しさを含んだ掠れた声が、静かな階段に響き渡る。
桐生君の思い? 身を引く?
彼の思いもよらない言葉が、頭の中を幾度となく反芻する。
なんで? だって、身を引いたのは私のほうなのに……。
「えっと…… その、意味がよく……。それって、どうゆうこと……?」
混乱と驚きで、桐生君の言葉の真意を全く汲み取ることができない。
するとそんな私の気持ちに気付いたのか、先程まであれほど口が重かった桐生君が突然堰を切ったように話し始めた。