キスから始まる方程式
「俺、本当はいつも不安だった。いつか七瀬が風間のもとに行っちまうんじゃないかって」
桐生君が不安……?
意外な言葉から始まった桐生君の話に驚きつつも、一言も聞き逃さないよう静かに耳を傾ける。
「けど、そんなカッコ悪ぃ姿見せたくなくて、いっつもカッコばっかつけて……。余裕なんてこれっぽっちもないくせにな」
桐生君……。
フッと自嘲気味に笑う彼の声に、ツキンとおもわず胸が痛む。
「そんな時、アイツが七瀬んとこに戻ってきたんだ。
いつかこんな日がくるんじゃないかって思ってたけど、それがまさかこんなに早いなんてな。 ちょっと……まいった……」
翔が、戻って来た?
最初はよく意味がわからなかったが、恐らく翔が私を助けたり、桐生君に対して宣戦布告ともとれる言葉を投げかけたあたりのことを言っているのだろう。
「もちろん俺だって七瀬をみすみす譲る気なんてない。あがいてでも七瀬を引きとめようとした。けど……」
そう言って不意に言葉をつまらせる桐生君。
しばらく何事か考えているふうだったが、やがて意を決したように深く息を吸い込むと、再び落ち着いた声でとつとつと話し始めた。