キスから始まる方程式
「七瀬が俺を呼び出したあの日……、七瀬の口から風間のとこに戻るって聞いて、あぁ、もう俺がどんなに必死になってもがいても、どうしたって無理なんだなって思った」
「!」
「それで、俺ができること……、俺が七瀬にしてやれることってなんだろうって考えた時、俺が七瀬を解放してやって、アイツのもとへ送り出してやることなんじゃないかって、そう思ったんだ」
―― 解……放?
衝撃のあまり、桐生君の胸から顔を離し、おもわず彼の顔を見上げる私。
「なんで…… だって桐生君……、工藤さんのことが好きなんじゃ…… なかったの?」
震える声で言葉をとぎらせながら問いかける私に、不思議そうな顔をした桐生君が「なんで?」と言いたげな瞳をしながら口を開いた。
「俺が、凛を?」
「う……ん。 だって私が桐生君に工藤さんの元に戻ってって言った時、“わかった”って」
「あぁ、あれは……」
薄っすらと赤く染まった頬をぽりぽりと掻きながら、なんとなく気まずげに視線を外す桐生君。
言葉にするのを一瞬ためらった後、一呼吸置いて罰が悪そうに小さな声で呟いた。