キスから始まる方程式
「その…… 俺が戻るって言ったほうが、七瀬が気兼ねなく風間の元に行けるんじゃないかと思ってだな」
「!?」
それってば、私が思ってたことと全く一緒じゃない!
想像を超えた驚愕の言葉に、クラリと目の前が歪む。
私も桐生君が工藤さんの元へ行きやすいようにと、翔の元に戻るなどという嘘をついたが、まさかそれと同じことを桐生君もしていたとは。
なんとも変なところで気が合うというかなんというか……。
結局のところ、互いが互いのことを想うあまり、余計に事が複雑化して無駄に絡み合ってしまったというわけだ。
しかも桐生君の決まりが悪そうな様子からして、私に嘘はつかないと約束していた手前、たとえそれが私のための嘘であっても少なからず罪悪感のようなものを感じていたのかもしれない。
私ってば、ホントバカみたい……。
今更ながら己のあまりのマヌケさに、情けないのを通り越して笑いさえこみ上げてくる。
私が勝手に突っ走って別れようなんて言わなければ、きっとここまで事態がこじれることもなかったにちがいない。
そうすればこんなふうに互いに嘘をつきあうこともなかっただろうし、もちろん辛い思いをすることもなかっただろう。
けれどそう思う反面、それでも釈然としない自分がいるのも確かで……。
どうしても先程の説明だけでは納得できず、私の胸の中で消化できずに引っかかっているもの。
それは……
私はクラクラする頭をなんとかこらえ、再び桐生君に疑問を投げかけた。