キスから始まる方程式
「でもでも、じゃあなんで先週の日曜日に工藤さんと会ってたの? あれってばデートじゃなかったの?」
「っ!?」
まさかあの場面を私に見られていたとは思いもしなかったのだろう。
驚きに目を見開いて私の顔を凝視した桐生君が、しまったとばかりに再び気まずそうに私から視線をそらした。
この反応……。やっぱり本当は、工藤さんと付き合ってるの? また私に嘘をついてるの?
桐生君が…… 自分が本気で好きになった相手が、そんな二股をかけるような軽い男だとは思いたくない。
彼の言葉を無条件で信じて、その思いを貫きたい。
けれど今の桐生君の決まりが悪そうな表情を見る限り、私にはどうしても彼の言葉を鵜呑みにはできなかった。
何も言わないってことは、やっぱり私が思ったとおりだったの?
視線を外したまま黙りこくる桐生君に、膨らみかけていた希望という名の期待がみるみる間に萎んて行く。
所詮男なんてみんな、その場しのぎの口先だけなんだ……。そう思う反面、桐生君だけは他の男の子とは違う!……そんなふうに思う自分が捨てきれず、心の葛藤は激しさを増すばかり。
一度期待してしまった分、再び残酷な現実を受け入れるのがどうにも恐くて、いっそのことこのまま逃げ出したいくらいだった。