キスから始まる方程式
「だけどっ、桐生君すっごく楽しそうにしてたよ? 声もかけられないくらい幸せそうだったよ!?」
こんなふうに声を荒げる自分が、情けなくもあり恥ずかしくもある。
己の器の小ささを、嫌でも実感せずにはいられない。
けれどそれがわかっていても、どうしてもそんな自分を抑えることができないのは……きっと私はそれほどまでに、桐生君のことが好きだからなのだろう……。
「それは…… まぁ……。べつに凛のことが嫌いってわけじゃないし……」
私の問いかけに、桐生君の言葉からもやや戸惑いが見え隠れしているように感じられる。
たまらなくなって、まるで責めるような眼差しで見上げたのだが……。
しかしそんな私の瞳を、曇りの無い聡明な桐生君の瞳が、臆することなくまっすぐに見つめ返してきた。
「それにこれが最後なんだったら、なるべくお互い、いい思い出として残るよう楽しいものにしたかったんだ」
耳の奥にしっかりと響き渡る、穏やかだけれど凛とした張りのある声。
これがもしも嘘偽りを述べているのだとしたら、世の中は全て嘘で固められた世界と思うしかないほどだった。