キスから始まる方程式
あ……。私の知ってる、桐生君だ……っ。
その瞬間、胸の奥がフッと軽くなった。
私の中のわだかまりとか無駄な意地とか……、そんな余計なものが全てスッと消え失せ、胸の奥につかえていたものもキレイサッパリなくなっていた。
「でもさ、やっぱりあの時俺、七瀬にちゃんと話してわかってもらってから凛と会うべきだったんだ。
結局黙ってたから、こんなことになっちまったんだもんな。
余計な心配かけたくなかったからだとか、そんなの ……単なる俺のエゴだよな……」
「そんな! わ、私だって桐生君にちゃんと、日曜日のこと確かめなかったのが悪いんだしっ」
張り詰めていた空気が一気に緩む。
シンとしていたはずの空間にはいつしか、外にいる生徒達の楽しげな騒ぎ声や歓声が、小さく響いていた。
そっか……、そうだったんだ。
桐生君の裏切りとさえ思えた一つ一つの出来事は、本当はそれこそが彼の優しさの塊だったんだ……!
そばにいたのに、そんなことにも気付けなかったなんて。