キスから始まる方程式
「これって…… 血……!?」
「……っ」
無意識に伸ばした私の指先に、桐生君の表情に一瞬だけ苦悶の色が浮かぶ。
声にこそ出さないが、痛みをこらえているのは明らかだ。
「どうしたのこれ? 普通、しようと思ったって、こんなとこ怪我しないよね?」
「あ、あぁ……、いや……」
「まさか…… 誰かとケンカでもしたの?」
「……っ!」
私の問いかけに、一瞬言いよどむ桐生君。
即答しないあたり、私も関わっていることなのだろうか?
もしもそうならば、尚更怪我の理由が知りたい。
それになによりも、怪我の具合も気掛かりだ。
「これはだな、その……」
どうしたものかと迷っている桐生君を、穴があきそうなくらいジッと見つめる。
やがてそんな私の様子に観念したのか、頬をポリポリと掻きながら桐生君が不甲斐なさそうに呟いた。
「風間に殴られた」
「翔に!?」
おもいがけない人物の登場に、私もさすがに動揺を隠せない。
確かに翔は、昔から運動神経がよくて正義感も強い。
けれど根が真面目な性格ゆえ、ケンカはもちろんのこと、ましてや人を殴ったなどという話は今までただの一度たりとも聞いたことがなかった。
「なんで!?」
驚きのあまり、とっさにそう聞き返そうとしたのだが。
しかしそれを遮るようにして、「違うんだ」と桐生君が言葉を続けた。