キスから始まる方程式
「風間は悪くないんだ。悪いのは、全部俺で……っ」
「え?」
「アイツ俺に『お前しか七瀬を笑顔にできないのに、何やってんだよ』って」
「っ!」
「『早く七瀬のもとに行ってやれ。悔しいけど、俺じゃダメなんだ』って、そう言ったんだ……」
翔が、そんなことを……。
その時翔に殴られて、ようやく自分がとんでもない過ちを犯したんじゃないかということに気が付いたと、桐生君が顔を歪めながら呟いた。
「以前アイツに、七瀬を泣かせたりしないって啖呵切ったくせに。ホント俺ってば、情けねぇのな……」
「……っ、そんなこと」
「悔しいけど……、やっぱアイツ、お前が惚れただけあってイイ男だな」
「っ!!」
自嘲気味に薄笑いを浮かべながら、桐生君がかき上げた前髪を右手でクシャリと握りつぶす。
しかし彼の瞳の奥にみえるのは、最早昔のような嫉妬などではない。
心からの、充足感。
そんな桐生君に、私の胸がドクンと激しく高鳴った。
こんな時なのに、あんなに敵視していた翔のこと認めちゃえるなんて……!
桐生君だってホント、翔に負けないくらい、すっごくすっごくイイ男だよ。
改めて目の当たりにした彼の強さに、胸の奥が熱くなる。
こんな素敵な男の子と出会えて…… そしてそんな彼に愛されていることが、本当にどうしようもなく嬉しくて……。
私はスッと背伸びをすると、そのままゆっくりと瞳を閉じた。