キスから始まる方程式
◆君と私の方程式
「桐生君おっそいな~。どこで油売ってんだろ」
桐生君と再び結ばれた七夕祭から、早一週間。
その後余韻に浸る間もなく、早々に1学期の期末考査に突入してしまったため、あれからデートらしいデートもまだ一度もできていなかった。
「やっと今日で試験終わるから、二人で帰りにどっか寄ってこうって約束したのにぃ」
左手首にはめた腕時計に視線を落とし、ほんのりピンクの色つきリップでちょっぴりおめかしした唇をムゥッと尖らせる。
この動作をするのも、既にもう三度目だ。
こうなってみると、待ち合わせの時間を“今日の放課後”とアバウトにしてしまったことが、今更ながらに悔やまれる。
それに加え、早く二人きりで会いたくて、つい五分おきに時計を見てしまう自分も悪いと言えば悪いのだけれど……。
でもそれほどまでに桐生君と過ごせることが、楽しみで待ち遠しいのだから仕方がない。
「はぁっ……」
待ちくたびれて大きな溜め息をつき、背後のフェンスにもたれかかる。
そのまま次々と校門をくぐり抜け学校を後にする生徒達を何気なく目で追いながら、再び「まだかな」と小さな声でひとりごちた。
みんな楽しそうだな……。
生徒達の楽しげにはしゃぐ声が、普段は人通りが少ない道路に響き渡る。
結果はどうあれ今日で試験が終わったこともあり、どの生徒も皆一様に解放されたような晴れ晴れとした顔をしていた。
私も早く桐生君に会いたい……。
桐生君の笑顔がふと脳裏に浮かび、おもわず胸がキュンと熱くなる。
そうして待ち遠しさに耐え兼ねて四度目に腕時計を確認した時
「七瀬」
「っ!」
私の名を呼ぶ優しい声が耳に届いた。