キスから始まる方程式


―― “よかったな”



翔のその一言に、胸の奥がジンと熱くなる。



いつもいつも、私を励ましてくれる翔。


どんな時でも、私のことを助けてくれる翔。


そしてなによりも、私の幸せを一番に考えて大切にしてくれる翔……。



こんな状況になったにも関わらず、どこまでも優しい翔に、いくら言っても言い足りないくらい感謝の思いが溢れてくる。



「翔…… ごめんね」

「え……?」



しかしようやく形にできたのは、心からの感謝の気持ちではなく謝罪の言葉。


翔を傷付けてまで桐生君と幸せになってしまったという、ある意味罪悪感にも近い思いが、喉元まで出かかった“ありがとう”という言葉を無意識に押し留めてしまったのかもしれない。



そんな私の言葉に翔はちょっと困ったように苦笑いをし、やがて伏し目がちに呟いた。



「ばっか…… 謝んなよ。元はといえば、七瀬に対して素直に気持ちをぶつけられなかった俺が悪いんだし」

「でも……っ」



たまらず一歩足を踏み出した私に、翔はニカッと満面の笑顔で私を見つめ「俺は……」と言葉を続けた。



「七瀬にはいつも笑っててほしいんだ。相手が俺じゃないのは死ぬほど悔しいけど……。でも、七瀬には誰よりも幸せになってほしい」

「……!」

「それが今の……俺の一番の願いだ」



最後は心なしか切なげに、翔が遠くを見つめながらそう小さく呟いた。

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