キスから始まる方程式
翔が今見つめている先には、いったい何が映っているのだろう?
二人で積み重ねてきた、かけがえのないたくさんの時間?
それともあの時、間違った選択さえしていなければ本当は叶うはずだった、私との幸せな未来?
どちらでもないかもしれないし、また、その両方かもしれない。
無邪気だけれど、切なくなるほど純粋無垢だった二人が、幼き日に確かに交わした結婚の約束。
そしてクローゼットの奥に箱に詰めて仕舞い込んだ、翔への想いとたくさんの思い出達。
それも今となってはもう、きっと永遠に開けることも、果たされることもないだろう。
私ってば本当に、どうしようもない大バカだ……。
今更ながらに、こんな自分にはもったいないくらいの素敵な男の子を傷付けてしまったことに、張り裂けそうなほど胸がズキリと酷く痛んだ。
どうすることもできずに、ギュッと下唇を噛みしめ拳を握りしめる。
明るい周囲とは裏腹に、重苦しい沈黙が二人を包み込む。
すると突然、それまでのしんみりとした空気を吹き飛ばすかのように、翔が「あっ!」と何かを思い出したように声をあげた。
「そうそう! もう一個頼みがあったの忘れてた」
「?」
“頼み”ってなんだろ?
不思議そうに首を傾げる私をよそに、翔が軽い足取りで近付いてくる。
そして私の目の前で止まったかと思うと、おもむろにスッと腕を伸ばしてきた。