キスから始まる方程式
「なんでこんなに来るのが遅かったの?」
「っ! あぁ、それは…… 」
「?」
何気ない私の問いかけに、なぜか一瞬躊躇する桐生君。
「その…… 凛と話してたんだ」
「!? 工藤さんと?」
“凛”という言葉に、心臓がドクンと跳ね上がる。
誤解も解け、もう気にはしていないつもりでいたけれど……。
やはり桐生君の口から直接その名を聞くと、まだ反射的に心が動揺してしまう。
先程桐生君がためらったのも、そんな私の心情を察してなのかもしれない。
「凛さ、明日から海外に留学するらしい」
「留学!? だ、だってまだ一学期も残ってるし、それに今朝のホームルームでも何も言ってなかったよ!?」
「あぁ。俺も凛にそう言ったんだけど……」
そう言って桐生君が、切なそうに目を細めながら言葉を続ける。
「アメリカに住んでる凛の叔母さんに、前々から向こうで一緒に住まないかって誘われてたらしくて……。
俺のことが心配で迷ってたけど、私がいなくても大丈夫そうだから行くことにしたって…… アイツ、言ってた……」
「工藤さん…… 」
「友達も特にいないから、クラスメイトには明日まで言わないでくれって担任に頼んだんだと」
「なんか、アイツらしいよな……」寂しそうにそう呟く桐生君に、たまらず胸の奥が軋んだ。