キスから始まる方程式
「お袋さんの墓参りの時に言ってた“これで最後”ってのは、本当はこういう意味だったんだな」
おそらく桐生君をお墓参りに誘った時にはもう、工藤さんは留学することを決めていたのだろう。
夏休みまであと少しなのに、そのたった数日が待てなかったのは…… きっとすぐにでも桐生君のそばから離れないと、せっかくの決心が鈍ってしまうと思ったからではないだろうか。
誰よりも気高くて強いように見えた工藤さん。
けれど実は、彼女が一番脆く傷つきやすかったのかもしれない。
これまでクラスのみんなと群れなかったり友達を作らなかったのも、そんな自分の弱さを誰にも知られたくなかったから……。
そうやって“虚勢”という名の鎧で身を包むことで、かろうじて自分を守ってきたのだろう。
そう思うと、なんだかどうしようもなく切ない気持ちでいっぱいになってしまった。
「ちゃんと、さよならは言えたの?」
「あぁ。…… 今度こそ凛には、幸せになってほしいからな」
「うん、そうだね」
中学生の時の“さよなら”は、いつかもう一度……という願いを込めての“さよなら”。
けれど今回は、お互いのこれからの人生の幸せを祈っての…… 本当の“さよなら”。
この先二人が会うことは、多分…… もう二度とないだろう。