キスから始まる方程式
「工藤さんて、すごくかっこよくて素敵な人だね」
「っ!?」
まさか私の口から工藤さんを褒める言葉が出てくるとは思いもしなかったのだろう。
一瞬面食らった様子の桐生君だったけれど、すぐに優しい表情でゆっくりと頷いた。
「あぁ……、すっげーヤツだよな」
「向こうで、友達や大切な人、いっぱいできるといいね」
「大丈夫さ。凛ならきっと…… 」
工藤さんとは短い間に色々あったけれど、本当の彼女を知った今となっては、恨みや妬みといった感情は不思議とどこかへ消え失せてしまった。
むしろ彼女には、今度こそ幸せになってほしいと、心の底からそう思う自分がいる。
そんなふうにしみじみと思っていると
「あっ、そういえば!」
突然桐生君が何かを思い出したらしく、私のほうを振り向いた。
「凛から七瀬に伝言預かってたんだ」
「伝言?」
思いもよらない桐生君の言葉に、目をパチパチさせて驚く私。
私が今まで工藤さんから言われた台詞を思い返してみても、残念ながら嫌味以外正直浮かんでこない。
もしかして…… 最後にまた嫌味とか言われちゃったりして……。
そう思うと、どうしても自然と体が身構えてしまう。
けれどそんな私の心情や、これまでの工藤さんの悪態の数々など知る由もない桐生君は、いたって軽快な口調でサラリと言い放った。