キスから始まる方程式
「なんだったらこれから行くか? 七瀬が行きたがってたホテルに」
「!?!?」
甘い囁きに、脳の奥がジンジンと痺れる。
桐生君特有の妙に艶めいている声が更に生々しさを増幅させるものだから、これまた余計にやっかいだ。
「いやっ! だからあれはね、なんてゆ~か……、言葉のあや……とゆ~か、その……勢いとゆ~か……」
「ふ~ん……、“勢い”ねぇ」
形勢逆転。
気が付けば、つい数分前まであたふたしていたはずの桐生君が今ではすっかり優位に立ち、反対に私がおろおろと動揺しまくってるではないか。
「べつに勢いでも、俺は全然かまわねーけど」
「はっ!?」
「俺は七瀬のこと好きだから、いつでも準備オッケーだし」
「っ!!」
先程の仕返しとばかりに破廉恥発言を連発する桐生君。
またしてもあの時の失言を持ち出され、あまりの恥ずかしさから、蒸発してしまいそうなほど全身が熱を帯びる。
こ、ここはなんとか桐生君の気をそらさないと!
とりあえずこの状況を打破すべく、大急ぎで脳を巡らせる。
まぁ残念ながら私のポンコツ脳では、当然得策など浮かぶわけもないのだが。
やっぱ、あれっきゃないか……。
ダメもとでとにかく片っ端から試してみる方法、その名も“下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる作戦”。
既に策とも呼べない代物の作戦に、結局いつも通り頼ることとなってしまった。