キスから始まる方程式
「あ、ねぇねぇ! そういえばさ、前々からずっと気になってたんだけど、なんで桐生君はろくに面識もなかった私に『付き合おう』なんて突然言い出したの?」
多少笑顔がひきつってしまうものの、極力明るく自然な風を装い、思いつくままを口にして行く。
「もしかして、一目惚れだったりして?」
「っ! え……、あ、いや~…… それはだな……」
あれ? 意外な反応。
桐生君が何やらもごもごと口ごもりながら、返答に困っている。
後先考えずに、本当に何気なく振った話題……というか疑問だったのだが、思いのほか的を射ていたようだ。
よく考えてみると、桐生君との恋ってホント変な始まり方だったもんなぁ。
普通お見合いでもない限り、会って間もない相手にいきなり付き合おうなんて言葉は出てこない。
よっぽどの尻軽男だったのか、それとも……?
なおもしきりに左右に目を泳がせる桐生君。
桐生君の妙な反応が、余計に私の好奇心をかき立てる。
千載一遇のチャンスを逃すまいと、すかさず甘えるように下から彼の顔を覗き込む。
桐生君はそんな私から自分の困惑顔を右手で覆い隠すようにして深い溜め息をつくと、「仕方ねぇか」と観念したように小さく呟いた。