キスから始まる方程式
「確か、高2の夏頃だったかな。
たまたま校内で大泣きしてるヤツ見かけてさ。
周りに人はいなかったけど、よくこんな廊下のど真ん中で恥ずかしげもなくあんなに泣けるよなー……って、最初は内心バカにしながら見てたんだけど」
なんだかちょっぴり照れくさそうに、桐生君がゆっくり言葉を続ける。
「なんか見てるうちにさ、凛のことをいつまでも引きずってる自分とソイツが重なって見えてきてさ……。
あぁ、コイツもきっと、こんなになりふり構わず泣いちまうくらい、本当にものすげー辛いことがあったんだろうなぁって」
懐かしそうに目を細めながら語る桐生君。
「それからソイツのことがなーんか気になっちまって、つい目で追うようになっちまって。
そんなこと続けてるうちに、いつの間にか俺のことも知ってもらいたいって思うようになったんだ」
正直、その人物の話と先程の私の質問に何の繋がりがあるのかさっぱりわからない。
けれど桐生君が過去の自分自身の話をしてくれるのが嬉しくもあり、私はそのまま彼の声に黙って耳を傾けた。
「これでも昔っからすっげーモテてたから、結構自信あったんだぜ?
ソイツの視界に入るよう、わざと目立つように女何人も引き連れて目をひこうとしたんだけどさ」
“ソイツ”って、女の子だったんだ。
相手が異性だとわかって、おもわずチクンと胸が痛む。