キスから始まる方程式
「なのに、ソイツの目に映ってるのはいっつもソイツの幼なじみの男で……。
どれだけ俺がアピールしても、ソイツ全然俺の事なんか眼中にないんだよな」
あれ?
“高2の夏” “廊下” “大泣き” “幼なじみ”
あ……
それまでバラバラだったはずのキーワードが、一本の線となってキレイに繋がる。
「その幼なじみの野郎もいっつもソイツのこと見てて、てっきり両想いだと思ってた。
けどよ、実際は他の女と付き合ってるって知って…… マジ信じられなかった」
それって……
「その時やっとわかったんだ。ソイツがあの時廊下で大泣きしてた本当の理由」
それって、もしかして……
「私の好きな人に…… 翔に、彼女ができたから……?」
「うん」
あぁ…… やっぱり。
“ソイツ”って私のことだったんだ。
翔と南條さんが付き合いだした日に、廊下でひとり大泣きをした記憶が脳裏に蘇る。
ようやく気付いた真実に、胸の奥が熱くなる私。
「そんなに前から、私のこと見守っててくれてたの……?」
「まぁな」
工藤さんのことがずっと忘れられなくて、長い間辛い想いをしてきた桐生君。
そっか。そんな桐生君だからこそ、いつも翔に対する私の気持ちを大切にしてくれたんだ。
過去幾度となく不思議に感じた、翔への想いを尊重してくれた彼の行動。
それが今となっては、痛いほど身に染み入る。