キスから始まる方程式
そういえばいつだったか、桐生君が翔にヤキモチを妬いた時に『長期戦を覚悟してる』と言ったことがあった。
あの時はその言葉の意味がわからなかったけれど……。
なかなか人の気持ちは変わらないということを、身をもって知っていた桐生君だからこそ、きっとそんなふうに言ったのだろう。
「ついでに白状しちまえば、七瀬と初めて話したあの日…… 俺と七瀬が渡り廊下でぶつかった日のことだけど」
ばつが悪そうにカリカリと頭をかきながら話す桐生君。
「実はあれ、単なる偶然じゃなくて、わざとぶつかったんだ」
「え?」
「情けねーけど、七瀬に近付くために必死に俺が考えた作戦。
さすがにそこまですれば、嫌でも俺のことが目に入るだろうと思ってさ。
まぁ、七瀬が手帳を落としてくれたのは、まさかの予定外だったけどな」
あんなにモテてプライドが高い桐生君が、私のためにそこまでしていたとは。
正直、驚きが隠せない。
「桐生君、私と付き合うまでは、結構色んな女の子達と遊んでるのかと思ってた」
「ば~か。こう見えても俺は、ずっと七瀬一筋なんだからな」
「他の女の子と、ホテルに行ったこととかないの?」
「なっ!? ったりめーだろ! キスだって七瀬が初めて……って……あっ!!」
「私が…… 初めて……」
すっごくキスも上手だったから、てっきり、し慣れてるのかと思ってた。
次々に明かされる真実、そして改めて知った桐生君の意外な一面に、胸がキュンと音を立てる。