キスから始まる方程式
「あ、ありがとう。それ私のなの」
口角をひきつらせながらも、極力平静を装い作り笑いをする。
本当は私のじゃないととぼけてしまえれば、それはそれでよかったのだが、カバー部分に『NANASE』と名前を書いてしまっていたためそういうわけにもいかない。
恐らく先程桐生君が私の名前を呼んだのも、その表記を見てのことだろう。
スッ
桐生君が右手に持っていた手帳を、私の目の前へと差し出してきた。
「ごめんね、ありが……っ!?」
手帳を受け取ろうと私が手を伸ばした瞬間、突如差し出されたはずの手が手帳と共に桐生君の体へと引き戻された。
「あっ、あの……っ!?」
予想外のことにワケがわからず、目を白黒させながらその場に立ち尽くす。
ふと顔を上げると、先程の爽やかな笑顔はもうそこにはなく、代わりにニヤリと何かを含んだような桐生君の笑みが目に飛び込んで来た。