キスから始まる方程式


「ねぇねぇ、バレンタインどうする?」

「え? 私、工藤君にあげよっかな~!」

「キャ~ッ! じゃじゃっ、アタシは大林君!」

「え~っ!? ズルいよ~! 私だって狙ってたんだから~」



高ぶった神経がいくらか落ち着きを取り戻した頃、後輩の部員達が楽しそうに話す声が耳に入ってきた。



「バレンタイン、か……」



ぽつりと呟いた私の言葉に、すかさず麻優が探りを入れてきた。



「七瀬、今年はバレンタインどうするの?」

「へっ!? バレンタイン!?」

「うん! 誰かにあげるの?」

「えーっと、その……」



「どうしようかな」と、消え入るような声で返事をする。



そういえば、去年までは毎年翔に手作りチョコあげてたな……。


もちろん義理チョコって言ってだけど……。



毎年美味しそうに私のチョコを食べてくれていた翔の笑顔が、不意に頭の中に蘇った。



ふふふっ。翔、すっごい喜んでくれてたっけ……。



けど……。



翔の笑顔をかき消すように浮かんできた南條さんの姿。



今年は……南條さんがいるから渡しちゃダメだよね……。



途端に切なさで胸がいっぱいになる。


そんな私に、麻優が興味津々の顔で問いかけてきた。
< 85 / 535 >

この作品をシェア

pagetop