キスから始まる方程式
「ねぇねぇ、バレンタインどうする?」
「え? 私、工藤君にあげよっかな~!」
「キャ~ッ! じゃじゃっ、アタシは大林君!」
「え~っ!? ズルいよ~! 私だって狙ってたんだから~」
高ぶった神経がいくらか落ち着きを取り戻した頃、後輩の部員達が楽しそうに話す声が耳に入ってきた。
「バレンタイン、か……」
ぽつりと呟いた私の言葉に、すかさず麻優が探りを入れてきた。
「七瀬、今年はバレンタインどうするの?」
「へっ!? バレンタイン!?」
「うん! 誰かにあげるの?」
「えーっと、その……」
「どうしようかな」と、消え入るような声で返事をする。
そういえば、去年までは毎年翔に手作りチョコあげてたな……。
もちろん義理チョコって言ってだけど……。
毎年美味しそうに私のチョコを食べてくれていた翔の笑顔が、不意に頭の中に蘇った。
ふふふっ。翔、すっごい喜んでくれてたっけ……。
けど……。
翔の笑顔をかき消すように浮かんできた南條さんの姿。
今年は……南條さんがいるから渡しちゃダメだよね……。
途端に切なさで胸がいっぱいになる。
そんな私に、麻優が興味津々の顔で問いかけてきた。