ラベンダー荘(失くしたものが見つかる場所)
 その日からラベンダー荘は春の穏やかな天気に恵まれ、かおりの花壇作りも順調に進んだ。

 その間、私はアキラと交代して手に入れたハーブエリアの雑草を片っ端から抜いていった。

 途中雑草と間違えてむしりそうになったハーブに、危ういところでかおりから声が飛ぶことも何度かあった。

 そして。

 旅人からはがきが届いて一週間後。

 ついに、かおりは花壇が完成したことを報告し、その夜かおりのささやかな送別会が開かれた。



 その翌朝。

 見送りはしないと約束したためか、信也もアキラも、もうとっくに朝食の時間になっているのにまだ起きてこなかった。

 わたしは郵便をとりにラベンダー荘の門に向かう。

 玄関を出ると、石畳にかおりの荷物が置いてあるのに気づいた。

 はっとして、裏庭をのぞくと案の定、花壇の前にもう会えないと思っていたかおりの姿を見つける。

 声もかけずに駆け寄る私に気づいて、かおりは口を開く。

「優子。せっかくバトミントン誘ってくれたのに、できなくてごめんね」

 かおりはレンガで囲われた花壇の中で、すっかり根付いたガーベラの花を、見つめたまま言った。

 数日前にリビングで発見したラケットを持って、かおりをバトミントンに誘ったのだが、断られていた。

「すごくやりたかったんだけど、私ね―――」

 朝の柔らかい風が優しくかおりを包む。

「―――実はみんなみたいに動けないの。私が失って、また手に入れたいと思ったのは、みんなみたいに動ける体。」

 赤、白、オレンジ、ピンクの花車が、風に合わせて小さく揺れている。

「どこか悪いの?」

「うん。健康に見えるから、混んでる場所に行くと平気でぶつかってくる人がいて、けっこう大変」

 かおりは爽やかな口調で続ける。

「私の見つけたもの知りたい?」

 私は一度うなづく。
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