ラベンダー荘(失くしたものが見つかる場所)
 アキラは一瞬、自分がどこにいるのか分からなかった。

 大きなブランコの長く伸びた影。

 汚れたゾウの滑り台。

 カラフルなスコップとバケツが置き忘れられている砂場。



 ここは、夕方の公園。

 すべてが赤く染まっている。

 アキラの足は自然と、歌が聞こえてくるほうへ歩き出していた。



 小、中、大の鉄棒が並ぶ公園の隅。

 小さな男の子が、一番端の鉄棒に座り、足を揺らしながら歌っていた。

 一日の終わりにはとてもそぐわない、少年の澄んだ、どこまでも伸びがいい声。

 少年は軽快なテンポに合わせて頭を揺らし、口を大きく開けて希望に満ちた瞳をキラキラさせて歌っている。

 こうして少年の歌を聞いていると、どこからともなく、滑らかな笛の音や多重のバイオリンの音、楽しげなタンバリンの音まで聞こえてくるようだ。

 あたしもこんな風に歌いたい。

 少年は歌いながらアキラの目を見つめている。

「明」

 少年はその瞬間、歌を止めた。

「おかぁさん」

 そう声に返しながら鉄棒を飛び降り、公園の入り口に向かって大きく手を振った。

 あたしと同じ名前なんだ。

 少年は佇んだままのアキラの手をぎゅっと掴んだ。

 あたしは驚いて身を硬くする。

 それでもお構いなしに明は、満面の笑みであたしの手を引いていく。

「帰ろっ。おねえちゃん」
 

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