ラベンダー荘(失くしたものが見つかる場所)
 老婆はそばを食べ終わったアキラの傍に、子猫と子ウサギのぬいぐるみを置いた。

 アキラは老婆に促されるまま、手を伸ばす。

「そっと扱うんだ」

 アキラは壊れ物を扱うように、ぬいぐるみを優しく両手で引き寄せた。

 子猫はクリーム色の毛。

 子うさぎはピンク色の毛。

 毛糸で編まれた全身は、柔らかいようでしっかりとしている。

 二対の黒い丸い目がアキラをじっと見つめている。

 笑っているような口元は今にもしゃべりだしそうだ。

「うっ」

 ―――か、かわいい、かも。

 老婆はアキラを見下ろしながら口を開く。

「気に入ったならどちらか一つあげるよ」

「え?でも、旦那にもらったんじゃなかったのか?」

「あなたがこの店の最後のお客さんだから、記念にね」

 アキラは老婆を見上げる。

「アタシももう年だからね。毎日ここまで来るのが、最近きつくなってきてね。店を整理してたのはそれが理由さ」

「あたしが手伝おうか?」

 老婆は、入れ歯が落ちそうなくらい口を開けた。

「迷惑なら別にいいけど」

 アキラの横顔を見て、老婆は微笑む。

「せっかくだけど、あなたにはあなたの生活があるだろう?気持ちだけ受け取っとくよ」

 老婆はアキラの頭に手をやり、そっと撫でた。

「なにしてるんだ?」

「優しい子の頭を、撫でてるんだよ。お母さんにされたことないのかい?」

「んー、たぶん、ない」

「そうなのかい?」

「っていうか分からない。あたし、記憶ないから」

 老婆のするままに、アキラがじっとしていると、店の外から人の声が聞こえてきた。

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