ラベンダー荘(失くしたものが見つかる場所)
 見晴台のほかの場所からも楽しそうな声が聞こえている。

 夕日を受けてラムネの水滴が輝いている。

「俺たち、よくやったよな」

 信也の楽しそうな言葉に、みんながうなずこうとしたとき、康孝が貼り付けたような笑顔で口を開いた。

「ここが折り返し地点だから、あと半分あるけどな」

 かおりは、へなへなと座り込む。

「はぁぁぁ」

「かおり」

 信也が苦笑しながらかおりを覗き込む。

「帰りは、おぶってやろうか?」

「魅力的なお誘いだけど、わたしの体、おんぶされると股関節がはずれちゃうから」

 かおりは笑いながら言った。

「大丈夫。ここまで来たんだから、最後まで自分で歩く」

「よし」

 康孝はバックパックをおろして、かおりの横に腰を下ろした。

「少し休んだら、帰るぞ」

 アキラと信也と私も腰を下ろす。

 五人で小さな円陣ができた。

「ねぇ康孝さん」

 私はすっきりした頭で、何も考えずに言った。

「康孝さんはなんでラベンダー荘にいるの?」

「あっ、それ俺も聞きたかった」

「うん」

「なんでだろう、普段なら聞くのをためらうのに。私も聞きたい。」

 康孝は帽子をとって頭を軽くかきながら言う。

「それだけ、心が開放されてる証拠だろ。俺の話はたいして面白くないぞ。お前たちみたいな物語は、俺にはないし」

 康孝は、向けられた熱心な瞳を見て、大きく息を吐き出した。


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