ラベンダー荘(失くしたものが見つかる場所)
 私は二年前にベットから始まったリハビリを思い出す。

 あんな痛い思いは二度とごめんだ。

「最初からなんて絶対いや」

「だったら目標を達成するよりも、確実に回復する道を選ばなきゃな」

 信也は前を見たまま続ける。

「もう、これだけ歩けるようになったんだから、これからはかおりのリハビリは、『リハビリ』じゃなくて趣味って言ったらどうだ?」

「え?趣味って……そんな楽しいものじゃないのよ。すごく痛くて、歩きたくない日も歩かなきゃいけないのよ?趣味なんて絶対思えないわ!」

 かおりは苛立ちを信也にぶつける。

「これからのかおりの人生に、歩くことはまだまだ必要なんだろ?」

「そうね。完治するのかも分からないから、一生歩かなきゃいけないかもしれない」

「なら、なおさら趣味にしろよ。その方が―――」

 信也はかおりをちらりと振り返る。

「―――楽しいだろ?」

 かおりは信也のさっぱりとした笑顔を見つめた。

(信也ってこんな風に笑ったっけ?)

「な?」

 信也に促されるまま、かおりはうなずく。

 体中が痛い。

 でも、わたしはみんなと一緒に旅に出れるぐらい、回復したんだ。

「そうかもね」

 かおりは信也の手をしっかりと握り返した。

(もう少し)

 かおりは自分に言い聞かせながら、顔を上げた。

 ラベンダー荘まで、あと少し。


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