ラベンダー荘(失くしたものが見つかる場所)

 私は空に浮かぶ月を見上げた。

 そういえば、かおりが言ってたっけ。

 この空の向こうには人がいるって。

「康孝さん。この空のずっと上のほうに、私たちのような人がいるって知ってる?」

「ん?何の話かな?」

「かおりが言ってたの。空からね、その人たちは私たちを見てて、私たちと同じような気持ちになったりしてるんだって。だからね、私はその人たちのためにも、失ったものを頑張って見つけないとだめなんだって」

 私の言葉に、康孝は一瞬表情が固まった。

 のどの奥から搾り出すように声を出す。

「かおりが、言ってたのか?」

「うん」

 康孝はじっと私を見つめる。

「……まあ、彼女はラベンダー荘にいるようでも、もう卒業してるからな。それに気づいてても、おかしくないか」

 康孝は、誰に言うでもなく、一人ごとのようにつぶやいた。

 そして、私に視線を戻す。

「かおりの言葉は気にするな。優子さんは優子さんのタイミングで卒業すればいいから」

 そう穏やかに言うと、今度はまた表情を引き締め、私ではない誰かに視線を合わせるようにして口を開いた。

「でも、一つだけ。覚えておくといい」

 康孝は私の耳に小声で囁いた。

「君は―――君の分身は、何人もいて、携帯やパソコンの画面を見てる。君の失ったものは、みんなの失ったものでもあるんだ」


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