Roman
その邸は、門、壁、銅像、何から何まで白く統一されていた。
白という色は美しく純粋だが、それを上回るようなシンプルさが邸の雰囲気を作り上げ、言葉で表すとするならば――不可思議。その一言しかないだろう。
タキシードの中から懐中時計を取出し、白燈は無言で見つめる。
「…時間も丁度良いようですし、入りましょうか」
そして門前に立つと鉄格子に右手をかざした。するとやはり、門はその合図を待っていたかのように音を立て左右に開く。その後ゆっくりと視線を玄に向け、再び正面に戻した。
「さあどうぞ」
彼の視線の先には大きなドアが立ち尽くし、横には黒一色のメイド服を着た二人の女性が行儀良く礼をしていた。
あまりにも豪勢過ぎる光景に、玄は息を呑む。
「…ちょっと聞いていいか」
「なんです?」
「姉さんは、この邸に住んでいるということだよな?」
何を言っているのか理解できないとでも言うように、白燈はきょとんと瞬きを繰り返した。
「……当たり前でしょう?」
「何が当たり前なんだ」
そしてまた本日何度目かの微笑を浮かべ、白燈はわざとらしい声音で告げる。
「ああ、申しておりませんでしたか。……沙耶様は、Roman国王様の養女なんですよ」