Roman
「お帰りなさいませ、白燈さま」
「そしてようこそおいで下さいました、異世界からの旅人さま」
黒服メイドは二人を人形のような微笑みで出迎えると、奥に立ちすくむ重たげなドアをギギギと開け始めた。その鈍く軋む音が、玄にはこの怪しげな雰囲気を更に強調しているように思えて仕方がなかった。
最後にドアは大きな音を立て、その中を玄たちの前に曝した。
思わず感激の声が漏れる。
「……―――凄い」
天井に吊された煌びやかなシャンデリアや床を占める赤い絨毯、壁に掛かる金色の時計と今にも喋り出しそうな肖像画。
まるで城のようなこの光景を脳裏に焼き付け、やっと玄は沙耶がこの不可思議で謎めいた世界――Romanの姫だということを痛感し、同時にその姫は本当に自分の知っている沙耶なのか…疑問を抱きつつあった。
「ララ、リリ。さあ、沙耶様にお伝えしてきなさい」
「「はい」」
白燈にララとリリと呼ばれた先程のメイドは、優しい声音で返事をすると初春の雪が溶けるかのように姿を消してしまった。