Roman
先程までとは異なる緊迫感が増す中、玄は白燈の背を追い足を進めた。
長く続く絨毯を辿ると、その先に一つ黒色の扉がそびえ立ち、二人を出迎える。
その扉の正面に来た途端、白燈は慣れた動きで跪き頭を下げた。予告もない急な行動に戸惑い固まる玄、その時だった。
『玄?』
隔たりの奥から小さく、けれども確かに鼓膜に響いた忘れもしないあの声。
「姉さん…!」
『……玄…久しぶりね』
扉がゆっくりと開く。中から徐々に見えてくるシルエットに、玄は息を飲んだ。
服装は違えど、雰囲気はあの頃と全く変わらない…沙耶。
ああ姉さんは生きている。
俺の前で、存在している…!
「……会いたかった」
「私もよ。玄ともう一度会うことができて…本当に嬉しいわ」
目を細めて笑う懐かしい笑い方を見て、あまりの嬉しさに玄は沙耶に駆け寄り抱きつく。そして沙耶も自分の存在をはっきりと伝えるかのように、玄を強く抱き締めた。