Roman
「私は、騙されたの…!」
いつも優しかったあの瞳が、あの声が、とても卑劣なものに変化した。
玄は今までこんなにも怒りに満ちた沙耶を見たことがなかった。そして同時に、"本当に沙耶なのか"と疑うほどの不安に襲われた。
沙耶は叫び続ける。
「このままじゃあ、あの世界に私たちは…ずっと騙されて続けるのよ!」
沙耶の声が部屋に反響する。それはまるで地が揺れるように勇ましく、玄にとっては恐怖そのものだった。
(怖い。)
足が震えた。恐ろしくて上手く息が出来なかった。それでも、玄は沙耶を信じた。
「……ねぇ、さ、ん…」
どうにかして紡いだ言葉は沙耶の目を醒まさせ、我を取り戻した沙耶の瞳には再びあの優しい眼差しが戻る。
「…ごめんなさい、急に怒鳴ったりして。でも玄、これだけはよく聞いて。…あの世界の死は、Romanの地での生なの。死んだら、人はみなこの世界に来るのよ。」
突然と告げられた言葉。けれど玄は納得した。
「……だから姉さんは生きているの?」
「そうよ。…どんな人も、死んだら再びRomanの地で生きるの。……永遠にね」