Roman

玄が死に対して此処まで深く考えるようになったのは、双子の姉、沙耶(ｻﾔ)が無惨な死を遂げた昨年の夏のこと。
彼女はとても美しく賢く、そして優しい人だった。人見知りな玄の手を取り、いつも遊んでくれたのは姉。

「私が玄の隣からいなくなるのは、私が死んだときだけだから」
「……必ず？」
「うん、必ず」

何をするでも、玄には沙耶がいた。玄の傍には沙耶がいてくれた。


そんな姉が突然、死んだ。
事故に巻き込まれたと聞く。
両親は、まるで始めから其処に沙耶という存在など"いなかった"とでも言うように姉の存在を葬り、何の違和感もなく、彼女はこの世界から消されてしまった。

玄はただ独り。
独りになり、悲しくなった。
悲しくなり、姉を求めた。
その姉はもういない。
届かない嘆きは薄暗くなった空を静かに仰ぎ、玄によって押し潰された。

「ねえ、玄」
心の中で姉の記憶が蘇る。
「―――人は死んだらどうなるんだろうね」
ぼそりぼそりと話し掛ける姉の顔には、深い悲しみの色が染み付いているような気がした。