Roman
「……失礼しました」
長々と喧しい説教を受け終わり、やっと帰り支度に取り掛かる。
空はもう黒色に染まっていた。
階段に足を付けるだけで、かたんかたんと壁に跳ね返る足音。それほどに静まりかえった校内は、静寂を好む玄さえも不気味に感じた。
――――がしゃん
「!?」
上から降るための最後の段差に足を着いた瞬間、上の階から大きな何かが破壊されるような音が玄の鼓膜に響く。
足速に駆け上がり、音のした辺りを見渡すが、そこに壊れたようなものなど一欠片もなかった。
「誰かいたのか?」
こんな遅くまで学校にいるのは、玄に説教をしてきたあの担任と玄本人だけのはず。しかし彼がいたのは隣の南校舎。ここは北校舎だ。南校舎や校外に繋がっているのは一階、つまり下の階のこと。
(先生は、来れない。)
下の階に降りる手段は二つある。さっき玄が上がってきた階段と、この廊下の一番奥にある階段だ。玄が上がった階段は誰一人通っていない。とすると奥の階段を使ったことになる。けれども、玄は自分以外の足音を聞いていなかった。自分以外の存在が、この校内にいないと断言できた。
だとしたら今の音は一体何だったというのだろう。いつの間にか玄の心は、反射的な恐怖感と本能的な好奇心に満たされていた。