Roman
玄は目を見開く
「沙耶だと!?…沙耶は、姉さんは生きてるのか!?」
「落ち着いて下さい。沙耶様は…Romanの地で生きておられます」
「…………生きてる、のか」
この一年間、止まることの無かった哀しみや苦しみが、胸の奥からすうっと消え去る感覚がした。
沙耶が生きている。その言葉は、どんな事実よりも玄を救う言葉だった。
白燈は足で二度床を蹴り二度手を叩く。すると彼の右手から光りが放たれ、長く細い形が出来上がった。
「…何をしてるんだ」
「見ていればわかりますよ」
光りは徐々に消え去り、代わりに白燈の右手には細長い黒いスティックが収まっていた。
「百聞一見にしかずと言いますからね。すみませんが何かモノを二つだけ、五秒間貸していただけないでしょうか?」
怪しみながらも、手に握っていた携帯電話と羽織っていた学ランを差し出す。
「……どうぞ」
「ありがとうございます」
白燈は二人を受け取ると、それぞれをスティックで二度叩き、にこりと玄に頬笑む。
「お返し致しますね」
「?……何をしたんだ」
「いずれ分かりますよ」
速やかに物事を進める白燈。呆気にとられながら、玄はその行動をただ見つめていた。