Roman
白燈が何か呪文らしき言葉を唱えると、スティックがまるで何かをなぞるように壁に図を描く。
――――がしゃん
「!この音、さっきの……」
「私がこちらに来た時も同じようなことをしましたので、その時の音が聞こえたのでしょう。さあ、準備ができたようです」
いつの間にか壁からは、先程白燈の右手にあった光りと同じものが放たれていた。
「こんなこと…夢でも見ているみたいだ」
「そうですね。この世界とRomanの地を比べると、そのような言葉が一番しっくり当てはまるかもしれません」
光りがバスの自動ドアのように、横へスライドする。
おとぎ話の世界。そんな不思議な気分が玄の心を浸していた。
「……これから並大抵のことじゃ驚けないと思う」
くすっと小さく笑いが浮かぶ。
「玄様も沙耶様も本当に変わったお方ですね」
「誉めてないな、それ」
「……どうでしょうか」
スティックを白燈の左手が二度叩いた瞬間、それは跡形もなく砂のようにさらさらと崩れ落ちていった。
「では玄様、沙耶様がお待ちしております。参りましょう」
「…ああ、分かった」