Pair key 〜繋がった2つの愛〜
*side 松元*
(一体なんだというのだ……)
何の変哲もない、降って湧いた連休に「たまには遠出でもするか」と提案してみれば、思いのほか嬉しそうに食いついてきて……自分の有給を消化してまでやって来た今日。なのに観光するのに適さない、動きにくそうな格好のこの女。
朝方、待ち合わせ場所に着いて早々目にした出で立ちに、驚いたのは言うまでもない——
なにしろ人集りの多い駅前で、異彩を放って歩み寄る人物。
その美少女と言うには年端がいくが、そう称されてもおかしくはない……妙に洗練された、主張し過ぎない物を身につけて、そこはかとなく幼さを残した衆目を集める女。それが自分の待ち人だというのだから——
(全く、なんだと言うんだ……)
私は先ほどと同じことを内心で繰り返しながら、写真を口実に絡んでくる、これといって特徴のない、何処にでも居るような学生だかOLだかの集団の相手をしていた。
それにしても……今日のアレは、いくらなんでも気合いが入りすぎだろう。
記念日でもない休日に、気晴らしにちょっと遠出しただけのこと。
それがどうだ?あんなにめかし込む必要がどこにある?都心に行くならまだしも、郊外の素朴な空気漂う……と言えば聞こえは良いが、所詮は古びた街ではないか。
山肌に沿って建設された隣の遊園地もそうだが、近場に天然の温泉が沸いているのが宿選びの決め手となった。
レジャーと観光収入だけが頼りの、どちらかと言えば寂れかけた田舎町で、場違いに洒落っ気を放つ女が自分の視界に映り過ぎるのを避けるべく……
私はことあるごとに背を向けて、少しばかり距離を置きながら、見知らぬ一団を適当にあしらう。
聞いてもいないのに語り出す、サークル活動やキャンパス情報、自己紹介のあれやこれやを聞き流しながら……ふと後方で、今日だけで何度目か分からない、虫唾の走る若輩特有のセリフを耳にする。
(チッ、またか……)
「ねぇねぇ、いーじゃん!俺らこのへん詳しいから案内するし!飯おごるからさ~~」
「そうそう♪何なら車でホテルまで送るよ?どこ泊まってんの?こっちにはいつまでいるの?」
会話を聞いていると、都会から来た女が一人で観光しているものと決めつけた若造が執拗に絡んでいる光景が目に浮かぶ。
追加の写真撮影をせがむ女どもをあしらって、私が振り向いた時……男二人に挟まれて、半ば強引に手を引かれながら足を進ませている光景が飛び込んできた。
(ふざけた真似をっ……)
「あの…結構です……ご心配なく。わたし、連れがいますので……」
「うっそ、もしかして彼氏~?そんな人どこにいんのさ~」
低俗無神経な発言の数々に苛々しながら、私は足早に近づくと我が物顔で細腕を奪い取り、見下しながら睨みつけるようにして言い放つ。
「私の連れに何の用だ?」
絶句して動かぬ輩を置き去りに、私たちは次の目的地に向かう。
いい加減うんざりしていた私だが、帰ろうの一言はなぜか口に出しにくい……
やはり、明らかに楽しみにしていたのであろうことが見え見えな年下の恋人——愛音の期待を裏切りたくはなかったからだ。
なのにそんな私の気配りをよそに、隣の女が呟いた。
「もう、部屋に戻りません?なんか、疲れたし……」
元も子もなくなるような発言にも関わらず、私は内心では安堵し、張り詰めていたものが少しばかりほぐれたのを感じた。
「まあそれも悪くない……今日は早めに休むか」
まだ日の高い午後の2時。
現地に到着して数時間だが、早めにチェックインして夕飯まで休むのも良いだろう……先に風呂に入るという手もある。
私はチラリと盗み見た横顔が小さく溜め息をつくのを見届けると、いつものように辛辣な皮肉を浴びせながら、なんとも言い難い気分だった。
(全く、今日は一体なんだというのだ……)
(一体なんだというのだ……)
何の変哲もない、降って湧いた連休に「たまには遠出でもするか」と提案してみれば、思いのほか嬉しそうに食いついてきて……自分の有給を消化してまでやって来た今日。なのに観光するのに適さない、動きにくそうな格好のこの女。
朝方、待ち合わせ場所に着いて早々目にした出で立ちに、驚いたのは言うまでもない——
なにしろ人集りの多い駅前で、異彩を放って歩み寄る人物。
その美少女と言うには年端がいくが、そう称されてもおかしくはない……妙に洗練された、主張し過ぎない物を身につけて、そこはかとなく幼さを残した衆目を集める女。それが自分の待ち人だというのだから——
(全く、なんだと言うんだ……)
私は先ほどと同じことを内心で繰り返しながら、写真を口実に絡んでくる、これといって特徴のない、何処にでも居るような学生だかOLだかの集団の相手をしていた。
それにしても……今日のアレは、いくらなんでも気合いが入りすぎだろう。
記念日でもない休日に、気晴らしにちょっと遠出しただけのこと。
それがどうだ?あんなにめかし込む必要がどこにある?都心に行くならまだしも、郊外の素朴な空気漂う……と言えば聞こえは良いが、所詮は古びた街ではないか。
山肌に沿って建設された隣の遊園地もそうだが、近場に天然の温泉が沸いているのが宿選びの決め手となった。
レジャーと観光収入だけが頼りの、どちらかと言えば寂れかけた田舎町で、場違いに洒落っ気を放つ女が自分の視界に映り過ぎるのを避けるべく……
私はことあるごとに背を向けて、少しばかり距離を置きながら、見知らぬ一団を適当にあしらう。
聞いてもいないのに語り出す、サークル活動やキャンパス情報、自己紹介のあれやこれやを聞き流しながら……ふと後方で、今日だけで何度目か分からない、虫唾の走る若輩特有のセリフを耳にする。
(チッ、またか……)
「ねぇねぇ、いーじゃん!俺らこのへん詳しいから案内するし!飯おごるからさ~~」
「そうそう♪何なら車でホテルまで送るよ?どこ泊まってんの?こっちにはいつまでいるの?」
会話を聞いていると、都会から来た女が一人で観光しているものと決めつけた若造が執拗に絡んでいる光景が目に浮かぶ。
追加の写真撮影をせがむ女どもをあしらって、私が振り向いた時……男二人に挟まれて、半ば強引に手を引かれながら足を進ませている光景が飛び込んできた。
(ふざけた真似をっ……)
「あの…結構です……ご心配なく。わたし、連れがいますので……」
「うっそ、もしかして彼氏~?そんな人どこにいんのさ~」
低俗無神経な発言の数々に苛々しながら、私は足早に近づくと我が物顔で細腕を奪い取り、見下しながら睨みつけるようにして言い放つ。
「私の連れに何の用だ?」
絶句して動かぬ輩を置き去りに、私たちは次の目的地に向かう。
いい加減うんざりしていた私だが、帰ろうの一言はなぜか口に出しにくい……
やはり、明らかに楽しみにしていたのであろうことが見え見えな年下の恋人——愛音の期待を裏切りたくはなかったからだ。
なのにそんな私の気配りをよそに、隣の女が呟いた。
「もう、部屋に戻りません?なんか、疲れたし……」
元も子もなくなるような発言にも関わらず、私は内心では安堵し、張り詰めていたものが少しばかりほぐれたのを感じた。
「まあそれも悪くない……今日は早めに休むか」
まだ日の高い午後の2時。
現地に到着して数時間だが、早めにチェックインして夕飯まで休むのも良いだろう……先に風呂に入るという手もある。
私はチラリと盗み見た横顔が小さく溜め息をつくのを見届けると、いつものように辛辣な皮肉を浴びせながら、なんとも言い難い気分だった。
(全く、今日は一体なんだというのだ……)