Pair key 〜繋がった2つの愛〜
*side 愛音*
こんな状況で、そんな難しいことを言い、自分で考えて、答えを出せと迫るあなた。
そんなこと、今のわたしに考えられるワケがなかった。
俊哉さんがわたしの身体をもてあそぶ。
一番感じる敏感な部分に触れながら、手の平や指を動かして、わたしの脚を押さつけて逃がさないようにしておきながら、ひたすら追い上げて追い詰めてくる。
快感の波に飲まれそうなわたしを、言葉と態度で引き戻して責める彼。
わたしが答えられないのは彼のせいなのに……彼は唇や舌までもを駆使してわたしを煽るように、味わうようにしながら“早く答えろ”と言い含み、責め立てる……
そんな事をされればされるほど、答えが導き出ない……
なのに休むこと無くわたしの内側をかき乱して脳髄を侵し、息は上がる一方で……会話もままならなくなってゆく。
思考せよと難題をけしかけておきながら、思考することを妨げる彼の目的はなんなのだろう。
わたしは懸命に俊哉さんの仕打ちに歯向かおうとするけれど、本心では望み続けていた行為なだけに……広がってゆく享受の波間に囚われてしまう。もがいてもがいても一向に進まず、乾いた岸辺にたどり着くことが出来ない。
それでいてそのせめぎ合う苦しい状況に酔いしれている部分もあって、どうにも計れない俊哉さんの意向を前にして……わたしは途切れ途切れに声をこぼし、片言に応じながら息巻くことしか出来なかった——
「もぅっ……やぁッ…む…むりぃ!……わかん、ない…よぉッ!」
「…………」
「…っん!…はぁ…ねぇ……おし…えて…」
「…………それを預けるとお前に言うことはだな、お前が——愛音が、私の最愛であると示すことと同義なのだよ」
「…………!?」
「つまりお前は、預かった責任を果たす義務がある……!」
「…ッ……ぎ、ぎむ……って?」
俊哉さんが手を止めて、ふっと小さく息をついた――
もしかして呆れられちゃったかな?って思ってたらカチャカチャという音がして、わたしの下半身がスルリとむき出しにされた。
真昼の真っ白な部屋の中で、ほとんど丸裸にされてしまい……ちょっと心許無い。
だんだんと開けた瞳の端には涙が滲んでて、視界が少し霞んでしまう……
そんな中に無言でたたずむ彼の姿を見つめる。さっきの意味を問いたいと思ったはずなのに、言葉が出ない……怖いくらいに綺麗だと思た——
とにかく呼吸を落ちつかせようと大きく息を吸いこんで、ゆっくりと吐き出しながら俊哉さんと視線をからませていた。
するとわたしの膝を抱え込むようにして、ゆっくりと俊哉さんが迫ってくる――さっきは離れかけたようにも思えた彼が、見るからに純粋に、とても強い意思のこもった目つきでわたしを見つめてて……わたしを取り囲む世界のなにもかもが突風に攫われてしまったような錯覚に陥る。
「――――来て……」
思わず呟いたわたしに向かって、俊哉さんがフッと微笑んだ——ような気がした。実際には落ちてきた唇に夢中になってしまって見えなかったけど。
奪ったり奪われたりするような激しいキスのなかで、わたしと俊哉さんは一つになって、今までにないほどの近さを感じた。これ以上ないと思えるほどの幸せに包まれた。泣きたいくらいに嬉しくて、叫びだしそうなくらいだった。
身体はあまりに熱く激しく、おかしくなりそうだった。天地もわからないほどの陶酔に、自分を失ってしまいそう——
一瞬、別世界に飛んだみたいになって……周りの音が、ふいに何も聞こえなくなった。
―――なのに、どうしてだろう?
そんな中で発せられた俊哉さんの声は……
ぼそりと呻いたようでもあり、こっそりと囁いたようでもある呟きで。
静かにこぼれ落ちたハズなのに……確かな存在感に溢れてて。
聴こえないハズのわたしの耳奥から、なぜか体の内側に……
わたしの心に、直に伝わってきたんだよ?―――