Pair key 〜繋がった2つの愛〜
溜め息の数だけ束ねて…
*side 愛音*
――――ボフッ!!……
部屋に着いて早々に、わたしはベッドに倒れ込んだ。
真っ白でスベスベしたシーツがひんやりとしてて心地良い。
電車に酔ったわけでもないし、歩き疲れたわけでもない。なのにこの疲労感は何なんだろう……
「はぁーー……」
わたしは溜め息をつきながら、ベッドとベッドの間を無言で通り過ぎて行く松元さんの姿を目で追った。
部屋の奥にはソファとテーブルが用意された寛ぎの空間があって、その先に続くテラスの扉は開け放たれ、新緑に輝く陽光が、これでもかと言うくらいに燦々と降り注ぐ。
眩しい光に目を細めながら、逆光の中に佇む彼の姿に目を凝らした……
カチャリと小さく音を立て、ルームキーとポケットから出した財布や鍵の束を置く仕草。
何の鍵だか知らないけど、時々耳にしてたカチャカチャいう音はやっぱりアレだったんだなぁと密かに思ったりした。
(あの鍵の中に、もしも愛人の合鍵があったらどうしよう・・・)
その鍵の多くは仕事用。私用の鍵など数える程しか無いということを、知っているのに消えない不安。疑念。取るに足らない些細なことも、不審に思える時があった……
どれだけわたしが想っても、松元さんの心がわたしで一杯になることなんて無いのだろうと、そう思うから。
所詮わたしは、あの鍵の中の一つに過ぎないのだ……
必要な時にだけ呼ばれる存在。無数にある鍵穴の中の、たった一つを埋めるという役目を担っているだけの存在。
わたしの代わりなんて、きっといくらでも、それこそ何処にでも転がってて……必要なくなったり、壊れたり、邪魔になったりしたら即、彼の抱えるスペアキーと入れ替えられる運命にあるんだろう。
(われながら超卑屈・・・)
例えそれが事実だとしても、わたしは今のこの状況に縋りたかった。
「好き」の重さが違ってもいい。
松元さんがわたしが側にいることを許してくれる限り、側にいたいと切に願う。それはもう、見苦しいほどに……
ただの嫉妬に始まって、どうしてこうも考えが余計なところにまで及ぶのか……
自分でも分からない、憶測ばかりのマイナス思考に嫌気が差す。どのみち先が長くないのなら、少しでも今を楽しみたいのに……
いつの間にか本気になってしまった恋愛と、この恋人を前に……わたしはいつ来るかもしれない終わりと、曖昧な関係に業を煮やしていた。
そんな胸に秘めた怒りの矛先……ぼんやりと外を眺める彼の表情は物憂げで、鬱陶しそうに前髪をかき上げる仕草が妙に色っぽいから小憎らしい。
男のくせに、たれ目のくせに、どうしてあんなに綺麗でカッコイイのか……何気ない仕草の一つ一つがムカつくくらい様になって見えた。
(くやしい……わたし惚れ込みすぎだよ……)
ヤバいと、そう思って見るのを止めた。
余計な思考を振り払うべく、わたしは布団に顔を押し付けて、ぐりぐりと擦り付けるように払拭する。
このまま眠ってしまおうか……そうすればもう、余計な考えに捕われることもない。
軽く眠ることで渦巻く嫉妬心をリセットしたい。そんなことを考えて目を瞑っていると、松元さんがわたしに言い放つ。
「おい、化粧がつくぞ……」
「え?……あっ、すみません。そうですよね……」
今日はいつもより化粧が濃いということを忘れてた。普段のナチュラル過ぎるメイクに比べたら、今日のは子供の頃にやってたバレエの発表会の時のそれだ。
このまま寝るのは肌に良くないし、そもそも慣れない濃厚メイクに肌が呼吸困難を起こしたかのように悲鳴をあげている……
(落とそっかな・・・)
ムクリと起き上がってぼんやりしながら一呼吸つき、わたしはクレンジングを荷物から取り出すと、バスルームへと向かった。
――――ボフッ!!……
部屋に着いて早々に、わたしはベッドに倒れ込んだ。
真っ白でスベスベしたシーツがひんやりとしてて心地良い。
電車に酔ったわけでもないし、歩き疲れたわけでもない。なのにこの疲労感は何なんだろう……
「はぁーー……」
わたしは溜め息をつきながら、ベッドとベッドの間を無言で通り過ぎて行く松元さんの姿を目で追った。
部屋の奥にはソファとテーブルが用意された寛ぎの空間があって、その先に続くテラスの扉は開け放たれ、新緑に輝く陽光が、これでもかと言うくらいに燦々と降り注ぐ。
眩しい光に目を細めながら、逆光の中に佇む彼の姿に目を凝らした……
カチャリと小さく音を立て、ルームキーとポケットから出した財布や鍵の束を置く仕草。
何の鍵だか知らないけど、時々耳にしてたカチャカチャいう音はやっぱりアレだったんだなぁと密かに思ったりした。
(あの鍵の中に、もしも愛人の合鍵があったらどうしよう・・・)
その鍵の多くは仕事用。私用の鍵など数える程しか無いということを、知っているのに消えない不安。疑念。取るに足らない些細なことも、不審に思える時があった……
どれだけわたしが想っても、松元さんの心がわたしで一杯になることなんて無いのだろうと、そう思うから。
所詮わたしは、あの鍵の中の一つに過ぎないのだ……
必要な時にだけ呼ばれる存在。無数にある鍵穴の中の、たった一つを埋めるという役目を担っているだけの存在。
わたしの代わりなんて、きっといくらでも、それこそ何処にでも転がってて……必要なくなったり、壊れたり、邪魔になったりしたら即、彼の抱えるスペアキーと入れ替えられる運命にあるんだろう。
(われながら超卑屈・・・)
例えそれが事実だとしても、わたしは今のこの状況に縋りたかった。
「好き」の重さが違ってもいい。
松元さんがわたしが側にいることを許してくれる限り、側にいたいと切に願う。それはもう、見苦しいほどに……
ただの嫉妬に始まって、どうしてこうも考えが余計なところにまで及ぶのか……
自分でも分からない、憶測ばかりのマイナス思考に嫌気が差す。どのみち先が長くないのなら、少しでも今を楽しみたいのに……
いつの間にか本気になってしまった恋愛と、この恋人を前に……わたしはいつ来るかもしれない終わりと、曖昧な関係に業を煮やしていた。
そんな胸に秘めた怒りの矛先……ぼんやりと外を眺める彼の表情は物憂げで、鬱陶しそうに前髪をかき上げる仕草が妙に色っぽいから小憎らしい。
男のくせに、たれ目のくせに、どうしてあんなに綺麗でカッコイイのか……何気ない仕草の一つ一つがムカつくくらい様になって見えた。
(くやしい……わたし惚れ込みすぎだよ……)
ヤバいと、そう思って見るのを止めた。
余計な思考を振り払うべく、わたしは布団に顔を押し付けて、ぐりぐりと擦り付けるように払拭する。
このまま眠ってしまおうか……そうすればもう、余計な考えに捕われることもない。
軽く眠ることで渦巻く嫉妬心をリセットしたい。そんなことを考えて目を瞑っていると、松元さんがわたしに言い放つ。
「おい、化粧がつくぞ……」
「え?……あっ、すみません。そうですよね……」
今日はいつもより化粧が濃いということを忘れてた。普段のナチュラル過ぎるメイクに比べたら、今日のは子供の頃にやってたバレエの発表会の時のそれだ。
このまま寝るのは肌に良くないし、そもそも慣れない濃厚メイクに肌が呼吸困難を起こしたかのように悲鳴をあげている……
(落とそっかな・・・)
ムクリと起き上がってぼんやりしながら一呼吸つき、わたしはクレンジングを荷物から取り出すと、バスルームへと向かった。