Pair key 〜繋がった2つの愛〜
戻ってみると、わたしを待つ人はどこにも見当たらなかった。


ドキリと胸を高鳴らせて、そわそわしながら彼の姿を探してみる。

(……もしかして?)

そう思って光の先を見ると、やっぱり……と確信する。
松元さんはテラスの柵にもたれかかって電話をしていた。


「そうだ。それを大至急、明日の朝までに必ず——」

聞こえてくる会話からして、たぶん仕事の話だろう。
休みの日ぐらい休めばいいのにと思いながら、わたしはフツフツと怒りが込み上げてくるのを感じていた。
陽が眩しいのも合わさって、キツい目をしているかもしれない。眉間にシワが寄っているかもしれない……それではまるで松元さんだ。

松元さんのことは好きだけど、別に松元さんになりたいわけじゃない。

わたしはただ、松元さんに愛されたいだけなのだ・・・
彼の最愛になりたかった。


性格や仕草が似てきても、ちっとも嬉しくなんかないし。
ポーカーフェイスに磨きがかかっても、それが役立つのは職場関係でのみ。
二人の関係を、前進なり、発展なりに導くものではなかった。


口惜しくて、虚しくて、情けなくて切なくて、腹立たしくて憎らしい・・・
二人の距離はこんなにも近いのに、触れているのに触れられない、いつまでたっても埋められない距離があった。
それは遠慮かもしれないし、気遣いかもしれない。だけどもしかしたら、無関心かもしれないし、無頓着かもしれないのだ・・・

確かめたい。もっと側に近づきたい。
この小旅行で、何かが変わるんじゃないかって期待していた自分。
けどそれは、自分一人で思い上がっていたにすぎないんだと……そう思ったら、無性に泣きたくなった。


(けど、わたしは泣かない・・・絶対に・・・)
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