星空は100年後
病院に着いて自動ドアをくぐると、冷えた空気がわたしたちの熱気を吹き飛ばしてくれた。
はあーっと生き返るような気持ちで、冷気を味わいながらエレベーターに向かう。
今までは四階だったけれど、今日から六階に移動したと言っていたことを思い出して、目的階のボタンを押した。
あの日、町田さんは再び目を覚ました。
雅人は泣きながら笑って町田さんの手を握りしめたと本人から聞いた。その日からは問題なく順調に回復に向かっているらしい。今日から病室も変わり、もう安心してもいいだろうとのことだ。
わたしはあれから、町田さんとは一度しか顔を合わせなかった。
まだ特別な病室だったこともあるけれど、町田さんは前と同じで幽霊もどきのあいだの記憶はまったくなく、ぼんやりとしていたので余計に気を使わせるかもしれないと思ったのだ。わたしの姿を見てちょっと驚いていたのを覚えている。
病室を移動したことで面会は誰でも出来るようになったから、こうして賢とふたりでやってきたけれど、きっと今日もびっくりするだろう。町田さんの中では、わたしとは終業式に険悪なムードになってから話をしていない間柄なのだ。
ナースステーションで病室を聞いてから、部屋に書いてある名前を確認してドアをノックした。
「あ、来てくれたんだ」
「よ」
「お邪魔しますー」
病室に入ると、ベッドの上で横になっている町田さんと、雅人と町田さんのおばさんがいて、にっこりと笑いかけてくれた。相室の人に軽く頭を下げてベッドのそばに寄ると、町田さんは他人行儀に頭を下げる。
持ってきたお花とお菓子をおばさんに手渡して、そばにあったパイプ椅子に腰掛けた。
「顔色いいじゃん」
「あ、ありがとう……」
賢に話しかけられると町田さんは戸惑いを見せる。それもそうだろう。町田さんと賢は本当に接点がない。わたしでも驚かれたんだから。賢ならなおさらだ。
ちょっと用事があるから、とおばさんが出て行った。気を使ってくれたんだろう。そういえばおばさんの顔色も、町田さんが目覚めてからずいぶんよくなった。あのときはいつ倒れてもおかしくないほど、憔悴していた。