星空は100年後
「あ、車いす乗る? 談話室行こうか?」
「いや、いいよすぐ帰るから」

 町田さんに問いかける雅人に、慌てて口を挟んだ。御見舞にきて、病人に無理をさせるわけにはいかない。おまけにわたしたちはふたりとも町田さんに気を使わせる相手だ。

「えーっと、どう? リハビリ」
「え、と。まだ……やっと支えがあって立てる感じかな」

 ずっとベッドで寝ていたからか、筋肉が落ちてしまい、立つのも一苦労らしい。もともと細い体がもっと細く見える。ただ、後遺症が残るかもしれない、と危惧していたけれど今のところは少し手足がしびれるくらいで、それもじきに治るだろうと先生に言われたらしい。泣いて怖がっていた町田さんを思うと、本当によかったと胸をなでおろした。

 雅人はと言うと、正直それよりも事故当日に一緒にいた少年の方を気にしていたと、後から本音で喋ってくれた。町田さんがわたしに言ったように、元カレらしく、すでに付き合っている人がいると何度説明してもしつこく連絡をよこしてきた人らしい。ちゃんと断るために会いに行ったと説明を受け、また一度だけ頭を下げにきた少年からも同じような説明をされたと言っていた。

 元カレの存在に、雅人は珍しくちょっと嫉妬をして不機嫌そうな顔をしていたことに、わたしは笑ってしまった。そして、町田さんは泣きながらなんどもそのことを謝ってきたらしい。

 振られるかもしれないと思った、と言っていたようだ。一連の流れをわたしと賢に報告をしに来た雅人は、本当に幸せそうな……わたしの大好きな笑顔で話していた。

「あ、ちょっとトイレ行ってくるわ」

 そう言って雅人が部屋から出て行って、あんまり親しくない三人だけにされてしまった。

「えーっと……まあ、リハビリ頑張ってね」
「あ、ありがと」

 気を使ってそれとなく声をかけると、町田さんは不思議そうな顔をしてから恥ずかしそうに微笑んだ。そして、しばらく考えるような表情をしてから、意を決したように顔を上げる。

「美輝ちゃんって……私の事、嫌いじゃないの?」
「え?」

 不思議そうにそう尋ねられて目をまんまるにしてしまった。隣の賢がクスクスと笑い始めてすごく恥ずかしい。

 いや、まあ……たしかに嫌っていたんだけど。今も、別に好きなわけじゃない。友達でもない。だけど。

「雅人の、好きな人だから……わたしも好きになろうと思って」

 素直にそう告げた。
< 112 / 115 >

この作品をシェア

pagetop