星空は100年後
 全力で、薄暗い静かな病院内を見渡しながら走った。途中で看護師さんとすれ違ってわたしになにかを叫んだけれど、聞こえなかった。

 この場所にいるはずの、彼女を探し出さなくてはいけない。

「美輝、ちょっと待て!」

 背後から腕を掴まれて足が止まる。

 わたしを追いかけてきた賢が、肩を上下に揺らせてわたしを引き止めた。

「探すの、離して」
「なにを」
「町田さんを!」

 賢は「は?」と眉間にしわを寄せた。

 そう思われても当然だ。わたしが賢の立場だったら同じように思うだろう。だって、町田さんは今、眠っているのだから。町田さんが目覚めるのを、みんなが待っている状態なのだから。

 でも、それを賢に説明している暇はない。

 町田さんはまだ生きている。生きているけれど目を覚ましていない状態ならば、きっとどこかにいるはずだ。治療をしているあいだは、死んだわけじゃない。おそらくこの病院に。雅人がいるこの場所から離れた場所にいるはずがない。

 きっと、どこかに、雅人の近くにいるはずだ。

 でなければ、本気でわたしは町田さんを許しはしない。

「急いでるの」

 賢が静止する手を振り払って、再び廊下を走り始めた。

 必ず近くにいると思っているけれど、病院内は広い。どこをどうやって探せばいいのかはわからない。必死に見渡しながら走っているけれど、町田さんの姿はどこにも見当たらない。

 なんで、こんなときにそばにいないのよ!

 今まで鬱陶しいくらいそばにいたくせに!

 夜の病院に、わたしが走る音と、荒い呼吸音が響き渡る。

 手当たり次第に階段を登ったり、渡り廊下を通ったりしているからか、今わたしが病院のどこにいるのかわからなくなってきた。その上、どこも似たような雰囲気で、何度も同じ場所に来ているような気になる。

 元々体力がないから、呼吸が乱れて息苦しくなってくる。走る速度も随分落ち始めた。足が上がらない。前に進まない。休んでいる暇なんてないのに。

「どこ、行ったのよ」

 廊下で、壁に手をついて、息を整える。
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