星空は100年後
 だめだ、このまま闇雲に走っているだけでは町田さんを見つけ出せそうにない。時間が経つに連れて焦りと不安がむくむくと膨れ上がってくる。

 もしかして、ここにいないのかもしれない。

 かといって、他に思いつく場所もない。

 わたしなら、絶対好きな人のそばを離れないのに。


 ――わたしなら。


 ふうふうと息を整えながら、顔を上げる。隣には窓がある。その先には暗闇が広がっていた。
 星が瞬く空。あまりにきれいなその光景に、思わず目を奪われた。




「町田さん!」

 大きな音を出して、病院の屋上のドアを開けた。

 近くで地図を探して、やっとたどり着いた屋上は生ぬるい風が吹いている。高いフェンスで周りが囲まれていて、その他にはなにもない、だだっ広いだけの場所だ。誰の姿も見当たらなかった。

「町田さん! どこにいるの! 出てきてよ!」

 それでも力の限り叫び続けた。肩を上下に揺らしながら、必死で彼女の名前を呼ぶ。

 それしかできないから、それだけを一生懸命に。

 体中から汗が吹き出ている。額から流れてきた汗がぽつりとコンクリートに落ちてシミを作った。

 広い屋上をぐるぐるとまわりながら、何度も。絶対どこかに、この声が聞こえる場所に町田さんがいると確信を込めて。

 死んだら、星になるんだよって、雅人が言っていた。町田さんもそれを知っていた。だから、ここしか思い浮かばない。わたしだったら、ここに閉じこもる。

 ここにいなかったらもう知るもんか。

 雅人のそばにいないで、勝手に拗ねた町田さんのことなんて認めてやらない。目が覚めたら思い切り罵倒してやる。

 だから、お願いだから出てきてよ。

「……っ町田、さん!」
「うるっさいなあ」

 馬鹿みたいに名前を呼び続けるわたしに、不機嫌な声がやっと届いて顔を上げた。頭上から聞こえた、町田さんの声。一体どこに、と思うと同時に、ドアのある壁の上からひょっこりと顔を出した。
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