Crescent Moon
職場とアパートとの往復では、体を動かすことがめっきり少なくなってしまう。
車で通勤していれば、歩くのは校内くらいなものだ。
元々、体を日常的に動かすタイプでもない。
運動が嫌いという訳ではないけれど、ジムに通っている訳ではないから、どうしても運動不足に陥ってしまう。
そこで、運動不足解消とダイエットを兼ねて、自転車通勤を選んだ。
キィーーーと派手な音を立てて、自転車が怪しげな動きで何とか止まる。
ブレーキのかかり具合は、最悪に近いレベルだ。
この自転車、私と同じで錆び付いているのかもしれない。
(この自転車も疲れてるのかな………。)
持ち主が疲れていると、自転車まで疲れてしまうものなのだろうか。
もう少し、リフレッシュしなければ。
リフレッシュして、メンテナンスして、そうすれば私もこの自転車も少しは元気になれるのかもしれない。
自転車を専用の駐輪場に止めて、向かうのはある場所。
本来ならば、私は職員室に行かなければならない。
教室で生徒に歴史を教えている時以外は、職員室で仕事をしている。
空き時間なんて、あってない様なものだ。
しかし、私の足は既に習慣付いているせいか、そちらに向かうことはなかった。
学校に着いたら、真っ先に向かう場所。
これも、朝の儀式の一部だ。
「瀬川先生ー、おはようございまーす!」
「おはよう!」
「先生ー、今日は小テストあるのー?」
「ふふっ、秘密よ。いつテストがあってもいい様に、ちゃんと予習しておいてね。」
「はぁーい………。」
すれ違う生徒達と挨拶を交わしながら、ひたすらにある場所を目指す。
長い階段の先に、私の目指すその場所はあった。
ガチャンと大きな音を立てて、階段の先にある重たい扉を力を込めて開けていく。
その先にあるのは、開けた空間。
眩しい光に満ちた場所。
「ん、眩しい………。」