Crescent Moon
光のシャワーが、朝に弱い私を出迎えてくれる。
ひんやりとした朝独特の冷たい空気と、眩しくもあり、それでいてどこか柔らかな光に満たされた空間。
ここは、私が勤務している学校の屋上。
最上階にある、私の秘密の空間だ。
忘れ去られているのか、人なんて滅多に来ない。
多分、ここにやって来るのは、サボリ目的の生徒と私ぐらいなものだ。
鍵は、開校と同時に職員が開けることになっているから、いつでも入ることが出来る。
人の背ほどの柵があるお陰で、出入り禁止にすらなっていなく、誰でも自由に入ることが出来るのだ。
忘れ去られた場所。
あることは知っていても、誰も行こうとは思わない場所。
人の気配が微塵もないこの場所のことを、私は密かに気に入っていた。
「さーて、仕事前に一服………。」
無表情でそう呟き、スーツの内ポケットに隠しておいた煙草を箱から取り出す。
もちろん、携帯用の灰皿と一緒に。
これから、長い長い労働時間が始まる。
学校の中にいれば、公私の私の部分は捨てなければならない。
その前に、ここで一休みしたい。
1本の煙草に火を付け、屋上の柵に寄りかかりながら眼下を見下ろす。
誰よりも高い位置から見る校庭は、下から見るのとは別物みたいだ。
その広さと全体の様子が、ここからなら一望出来る。
広い校庭のあちらこちらで、生徒の影が動く。
まだ朝の早い時間ということもあって、それほど登校している生徒は多くはない。
誰もいない屋上から見下ろす、街の景色。
静かで見晴らしのいい場所で吸う煙草は、また格別なものなのだ。
私にとっては。
(これって、最高の贅沢だよね。)
授業が始まってしまえば、煙草なんて吸うことは出来ない。
そもそも、校内は敷地内であっても、禁煙なのだ。
ここで煙草を吸うこと自体、見つかってしまえば、いくら教師といえども大目玉を食らうことになるだろう。