Crescent Moon
秘密の場所で、誰にも内緒で一服をする。
それが、私の平日の日課になっているんだ。
「あー、眠い………。」
ぷはぁーっと満足気に煙を吐き出しながら、目を擦る。
眠気は大分覚めてはきたけれど、それでも眠いものは眠い。
あと数時間は、愛する煙草の煙ともお別れだ。
数時間の禁煙だけれど、今のうちにたっぷりこの煙を楽しまなければ。
頑張ろう。
今日も1日、私なりに一生懸命生きていこう。
その時だった。
クスクスと、誰かの笑い声が聞こえてきたのは。
「………!?」
誰もいないはずの屋上から聞こえてくる、知らない人の笑い声。
誰かの笑い声が、耳に確かに聞こえてくる。
この時間、こんな場所に来る物好きなんて、私くらいしかいない。
他の時間ならばともかく、朝イチのこの時間にここで誰かと顔を合わせたことなんて、今まで1度たりともなかった。
誰よ?
誰なの?
慌てて、その声の主を探す。
しかし、いくら周りを見渡しても、人の姿は見つからない。
「な、何なの………?」
まさか、幽霊とかがいるんじゃないだろうか。
見てはいけないものを、私は見つけようとしているのではないか。
そんな訳、ないよね。
深夜ならともかく、朝っぱらから幽霊なんて出るはずがない。
自分で自分にそう突っ込みを入れ、改めて周囲をよく探してみる。
すると、屋上の入り口に、私ではない人影をようやく見つけることが出来た。
閉めておいたはずのドアが、何故か開けられている。
施錠こそしていなかったけれど、私の後に人が来ていたらしい。
ドアの向こうに立つのは、見知らぬ男。
強い風が吹き抜けて、名も知らない男の髪を揺らす。
ナチュラルブラウンの髪が、フワリと風によってなびく。
まるで、1本1本が意思を持っているかの様だ。
クリッとしたつぶらな瞳が、真っ正面に立つ私の姿を確実に捉える。